
Shinoda Taro, Katsura 17, 2021, Oil on canvas, 120 × 95 × 8 cm
絵画が立ち現れる場所へ
篠田太郎、フランシス真悟、前田紗希、鴫原夕佳
2026年3月14日(土)–4月11日(土)
オープニングレセプション:2026年3月14日(土)17:00-19:00
開廊時間:火−土(日月祝休)12:00-19:00
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MISA SHIN GALLERYは、2026年3月14日(土)から4月11日(土)まで、篠田太郎、フランシス真悟、前田紗希、鴫原夕佳によるグループ展「絵画が立ち現れる場所へ」を開催いたします。
篠田太郎の《桂 KATSURA》シリーズは、麻布のキャンバスにウサギ膠を引き、くるみ油をとき油とするなど、油彩画の基本的な素材を用いながらも、私たちが慣れ親しんできたペインティングの枠組みから静かに逸脱しています。キャンバスは大きな余白を抱え込み、その表面は端から中心へと緩やかな曲面を描きながら窪み、中心部にのみ抽象的な色面やグリッド状の線が現れます。私たちが見慣れたペインティングとは一風異なっており、この作品を前にして、どの位置でどのくらいの距離から観るべきなのか、迷いが生じます。日本庭園の造園家としてキャリアをスタートさせた篠田は、一般的な二次元/三次元の空間把握に違和感を抱き、次元を切り分けるのではなく、ひとつの系譜として捉える構造へと絵画を接続させました。それは、桂離宮の持つ空間構造に近いものだと考えます。例えば、絵画を見る距離とは、私たちが無自覚に共有してきた文化的・身体的前提の集合体である──《桂》シリーズは、その前提を根底から再考することから始まった、篠田の最後のシリーズです。

Shingo Francis, Cycles of Illumination (pale blue), 2025, Oil on canvas, 122 x 122 cm
フランシス真悟は、長年にわたりブルーを基調とした抽象絵画やモノクローム作品を制作してきましたが、近年では特殊な素材による光の干渉現象を用いた「Interference」シリーズを発表しています。鑑賞者の視点や角度、時間帯によって色彩が変化するこれらの作品は、モニター上の画像では決して完結しない視覚体験を生み出します。光と色、影のあいだで生起する知覚の揺らぎは、朝から夕暮れへ、季節の移ろいへと連なり、鑑賞者を自然のリズムへと引き込みます。ポスト・ミニマリズムやライト&スペース・ムーブメントと共鳴しつつ、禅や自然哲学に基づく東洋的精神性を内包するフランシスの絵画は、静止した平面でありながら、地球的、さらには宇宙的な時間尺度へと開かれた知覚の場として機能します。

Maeda Saki, tension 25_26, 2025, Oil on canvas, 145.5 x 112 cm
前田紗希の絵画は、構成と偶然、抽象と物質感、感覚と理性のあいだに生まれる緊張と調和を精緻に保ち続けています。画面を斜めに横切る線、重なり合う三角形のレイヤー、慎重に制御された色面は、均衡を保ちながらも、常に崩れうる可能性を孕んでいます。油彩におけるペインティングナイフの独自の使用法によって生み出されるマチエールは、擦りガラスのように画面を覆い、見る者に「その奥」を想像させます。青を基調としつつ、金・銀・白・黒などが差し込まれることで、前景と背景、光と影が反転するような視覚的揺らぎが生じ、二次元と三次元を往還する感覚が静かに立ち上がります。最新作では、線に近い要素が加わることで、より張力の高い画面構成が生まれ、均衡と不安定さの境界が一層研ぎ澄まされています。

Shigihara Yuka, Night, 2025, Oil on canvas, 112 x 162 cm
鴫原夕佳は、本展がMISA SHIN GALLERYでの初めての発表となります。鴫原の絵画制作は、支持体づくりと描画行為を明確に分けることなく、一続きの営みとして進められます。木枠に麻布を張り、地塗りを施す段階からすでに制作は始まっており、あえてムラや行為の痕跡を残した地塗りの上に、薄く溶いた油絵具を重ね、拭き取り、そのプロセスを繰り返していきます。この反復のなかで、作家の意図を超えて立ち現れてくる像は、あらかじめ想定されたイメージではなく、むしろ素材と時間、光の作用によって浮上する潜像としての「風景」です。鴫原は、それを積極的に構成するのではなく、現れたままの状態でキャンバスに留めようとします。この制作姿勢の背景には、最古の写真技法であるヘリオグラフィーからの強い影響があります。ヘリオグラフィーが「光によって像が生じる現象」を記録する技法であったように、鴫原の絵画もまた、現像を思わせるプロセスを辿ることで、風景が生起する瞬間へと立ち戻ろうとします。静かに染み込んだ色彩は、鑑賞者の知覚のなかで内的な風景を呼び起こします。
本展に参加する4名の実践に共通して見られるのは、絵画を「何が描かれているか」という解釈の対象としてではなく、どのように世界と出会い、どのように知覚が生成されるのかを体験する場として捉える姿勢です。鑑賞者がそれぞれの身体と時間を携えて作品の前に立つとき、絵画は再び、私たちの知覚や世界認識に静かな変化をもたらします。
展覧会初日には、作家を迎えてオープニングレセプションを開催いたします。
フランシス真悟、前田紗希、鴫原夕佳が在廊予定です。
皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。
篠田太郎
1964年-2022年。東京生まれ。造園を学んだ後に作家活動を開始する。一貫して人間と自然の関わりを深く問う作品は、ドローイング、彫刻、ビデオ、 インスタレーションと多岐にわたり、国際的に高い評価を得ている。パブリックコレクションとして、森アートコレクション、ルイヴィトン財団などに収蔵。さいたま国際芸術祭(2020年)、マーティン・グロピウス・バウ(ベルリン、2019年)、シドニービエンナーレ(2016年)、シャルジャビエンナーレ (2015年)、森美術館(東京、2010年)、広島市現代美術館(広島、2002年)など国内外の展覧会にも多数参加。
フランシス真悟
1969年カリフォルニア州サンタモニカ生まれ。ロサンゼルスと鎌倉を拠点に活動。フランシスは、絵画における空間の広がりや精神性を探求し続けているアーティストです。代表作として、幾層にも重ねられたブルーの抽象画や、深い色彩のモノクローム作品の他、特殊な素材を使用し観る角度によってさまざまな光と色彩が立ち現れるペインティング「Interference」シリーズが知られています。セゾン現代美術館(長野、2018年)、マーティン美術館 (テキサス、2019年)、 銀座メゾンエルメスフォーラム(東京、2023年)、茅ヶ崎市美術
館(神奈川、2024年)など 国内外の多数の個展、グループ展に参加。JPモーガン・チェース・アートコレクション、スペイン銀行、 フレデリック・R・ワイズマン財団、森アートコレクション、セゾン美術館、茅ヶ崎市美術館などにコレクションとして収蔵。
前田紗希
1993年福井県生まれ。京都芸術大学美術工芸学科油画コース卒業。構成と偶然、抽象と物質感、感覚と理性のあいだに生まれる緊張と調和を主題に、ペインティングナイフによる独自のマチエールと色彩構成による絵画を制作する。主な個展に GALLERY TOMO(京都、2019年)、「Accumulating as we pass by」YUKIKOMIZUTANI(東京、2022年)、「Interplay」MISA SHIN GALLERY (東京、2025年) など。DMG森精機株式会社、OCA TOKYO(三菱地所株式会社)などにコレクションされている。2025年3月に、福井県の足羽川の河川敷にパブリックアートを設置。
鴫原夕佳
2000年神奈川県生まれ。2024年、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。支持体づくりから描画までを一体のプロセスとして行い、素材の作用から立ち現れる潜像としての風景を絵画として留める制作を行っている。主な個展に「A Place of Certainty / 確かな場所」JINEN GALLERY (東京、2024年)「Wind Cage」Gallery Blue3143(東京、2025年)がある。
