
Shimizu Jio, Mirror (Recorded 31 Dec 2024 – 1 Jan 2025), 2024-2025, Mirror, aluminum plate, LED, acrylic box, Φ38cm, Framed 50 x 50 x 8 cm
志水 児王
Radius
会期:2025年6月21日(土)– 7月19日(土)
オープニングレセプション:2025年6月21日(土)17:00-19:00
開廊時間:火−土(日月祝休)12:00-19:00
Press Release
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MISA SHIN GALLERY では、2025年6月21日(土)から7月19日(土)まで、志水児王の個展「Radius」を開催いたします。
志水はこれまで、私たちの身体や意識では捉えきれない微細な物理現象に着目し、芸術と自然科学の交差点に立つ実践を続けてきました。本展では、宇宙線や隕石といった地球外の物質をテーマとしたインスタレーション、ドローイング、写真による新作群を発表いたします。
本展タイトル「Radius」はラテン語に由来し、古代ローマでは円の測量に用いられる棒状の道具を指しました。そこから「半径」や「放射、放射状のもの」へと語義が広がり、現在は放射線に関わる多くの用語や「ラジオ」の語源になっています。この語には、ある一点から放射状に広がるエネルギーや、線的な力のイメージが内包されています。また「範囲」や「影響力」の比喩にも当てられます。
今回、志水は主に二つの事柄に着目しました。一つは、宇宙のどこかで絶えず発生する高エネルギー粒子=宇宙線。もう一つは、それらが絶えず地球へと降り注ぎ、私たちの身体や環境にリアルタイムで作用しているという事実です。私たちはこうした物理的現象に日常的に晒されながらも、それを意識することはほとんどありません。
志水は、1cm角のシンチレーター※1を用いて宇宙線の検出を試み、その到来の瞬間を、鏡の裏面をドット状に削るという独自の装置によって可視化します。直径38cmの鏡円盤1枚で1日=24時間分のイベントを記録し、会期中も宇宙線の到達は継続的に蓄積されていきます。MISA SHIN GALLERYの床面積に換算すると、毎分およそ48万回以上、宇宙線が到来しているという推定値も含め、こうした不可視の現象が持つ物理的かつ詩的な実在性を体感させます。
この作品は、志水が2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の後に、Wrkレーベルで活動をともにした飯田博之と共作制作した音響インスタレーション《Decay Music》(2016-) から発展したものです。そこでは、放射線エネルギーを音階に変換する演奏装置によってまれに聞こえる高音※2が、宇宙線の入射に対応していると推定されていました。本作は、その発想を視覚表現へと展開した新たな試みです。
また志水は、地球に落下した隕石を粉砕し、顔料として用いたドローイング作品にも取り組んでいます。スポイトで紙面に滴下するその制作方法は、ジャクソン・ポロックに代表されるドリッピング技法へのオマージュであると共に、チャンス・オペレーションの流れも汲みます。まったく同じ条件でドリップさせているにも関わらず、それぞれの隕石の粒子の荒さや重さと関係し、同じ形、同じ場所に落下しません。作家の手を介して隕石が重力によって落下するその軌跡は、かつて月の形成や恐竜の絶滅といった地球史的事件をもたらした衝突のミクロな再演であり、最小のジェスチャーと宇宙的スケールを結びつける試みとも言えるでしょう。
本展では、モロッコ、チェコ、ロシア、オーストラリア、アメリカなど、世界各地で採取された隕石を用いたドローイング作品《Collision》(1994-) に加え、自動追尾システムを用い昼間には見えない星座を追う《star while day time》(1992-) シリーズも併せて1点ご紹介いたします。
「常に降り注ぎ続ける宇宙線。発生の仕組みはいまだ不明ながら、宇宙の起源と密接に関係すると考えられています。その解明に向け、南極の氷の奥深くや岐阜の山中あるいは世界各地の高原に置かれた多くの機器類がいまも観測を続けています。
宇宙と日常の間にはっきりした境界は引けません。何万光年という遥かな時空を隔てて飛来する物質が 絶えず私たちの身体を貫いているのですから。」
― 志水児王
初日のオープニングレセプションには作家も在廊予定です。
皆様のご来場心よりお待ち申し上げます。
脚注
※1 放射線を吸収して発光する特性を持つ物質
※2 非常に高いエネルギーに相当する

Shimizu Jio, 1cm³, 2025, Scintillator, 1 x 1 x 1 cm

Shimizu Jio, Collision: USA Texas 1917, 2025, Meteorite, acrylic medium on Arches paper, 110 x 65 cm

Shimizu Jio, Collision: Europe Czech Moldau River 1787, 2025, Meteorite, acrylic medium on Arches Paper, 110 x 65 cm

Shimizu Jio, Collision: Australia 1941, 2025, Meteorite, acrylic medium on Arches Paper, 110 x 65 cm

Shimizu Jio, Star While Day Time Schedar (α Cassiopeiae) 00:41.1+56°35 55°41’26.99”N 12°34’17.01”E 40M 15H 24D 04M 2009Y, 2009, Inkjet print mounted on aluminum, 100 x 65 cm
志水児王 Shimizu Jio
1966年、東京生まれ。現在、広島県および埼玉県を拠点に活動。東京藝術大学大学院美術研究科修了。1994~2006年、音響レーベル「WrK」に参加。2008~2010年、文化庁新進芸術家海外研修制度によりコペンハーゲンに滞在。 主な展覧会に、「六本木クロッシング」(森美術館、東京/2004)、「釜山ビエンナーレ」(釜山/2008)、「日本のサウンドアート」(ロスキレ現代美術館、コペンハーゲン/2011)、On the Edge 国際芸術祭」 (ノルウェー/2012)、「Sound Reasons」(クィーンズ ギャラリー、ニューデリー/2012)、「オープンスペース2014」(NTT ICC、東京/2014-15)、「Re-actions」(三菱地所アルティアム、福岡/2017)、「第21回文化庁メディア芸術祭」(国立新美術館、東京/2018)、「瀬戸内国際芸術祭2019」など。